私好みの新刊 20215

『中谷宇吉郎』 清水洋美/文 野見山響子/絵  汐文社

 中谷宇吉郎の伝記を扱った本は過去にも出ている。しばらく時を

経て今回宇吉郎の「伝記集」が出版された。この本では副題に「雪

と氷の探求者」と書かれているように宇吉郎の雪氷学者としての側

面を主に書かれている。しかし、中谷さんにはもう一つ随筆家とし

ての顔もあった。「線香花火」や「立春の卵(卵の立つ話)」「地球

の円い話」など、身近に潜む科学現象を論理的に見ていく話はおも

しろい。ぜひそちらも見てほしい。岩波文庫の随筆集や国土社の科

学入門名著全集にも収録されている。

この本では、まず宇吉郎の幼少の頃からの生活ぶりが書かれ、そ

のあと、東京大学に入学して寺田寅彦に師事したことが第2章、

3章にわたって書かれている。この寺田寅彦との遭遇が宇吉郎の

研究指針を大きく方向づけた。宇吉郎は寅彦の研究姿勢を学んだほ

かに、寅彦の随筆にも影響された。本書では線香花火の燃える現象

について宇吉郎と寅彦とのやりとりも書かれている。(線香花火は後

に宇吉郎の随筆になっている) 第4章からは、宇吉郎の研究内容が

主となる。宇吉郎は、雪の降る日に十勝岳で雪の結晶を撮影したり、

札幌に住居を写してからは人工的に雪の結晶を作ることに成功した

話など、この時期の宇吉郎の研究ぶりがよく書かれている。

その後宇吉郎の研究は実利面にも及んだ。線路の敷石が凍結する

ことの原因をさぐったり、飛行機の着氷の研究もしたりする。戦後

は、「雪の結晶」の映画を作るなどして普及面にも活躍する。それ

らの様子が子どもにも読みやすく執筆されている。最後に、宇吉郎

生誕の地、加賀市に「中谷宇吉郎雪の科学館」が建てられているこ

とにもふれている。                202012月 1,600

 

『はからはじまるカルシウムのはなし』井沢尚子/作 福音館書店

 本の題名からはちょっと難しく思うかも知れない。しかし、大胆な

挿絵を見ると子どもたちも飛びつくのではないか。テーマはカルシウ

ムを通したイオン循環の話である。

地球にはいろんな原子があり、それらがイオンになって土から植物、

植物から動物へ、また動物から土へと循環している。それらのイオン

は、わたしたちの体に入ることによって体に大切な栄養分がミネラル

としての働きをしている。カルシウム以外に、マグネシウムやナトリ

ウム、鉄などいろんな原子はわたしたちにもなくてはならない物質で

ある。それらが地球を循環している。その大切な働きを、カルシウム

に絞って、しかも子どもたちに一番身近な歯を使ってくるあたり、

さすがの構成である。

この本では、抜け落ちたぼくの歯がどこにいったのか気になること

から始まる。土に帰ったのだろうか。土中にはいろんな生き物も埋も

れている。きっとぼくの歯も土に埋もれたんだ。土に埋もれた歯は分

解されて小さくなっていく。やがてそれらは植物の根に吸い込まれて

いく。そして、植物の栄養になる。今度は、その植物を食べたカタツ

ムリの体にカルシウムは入っていく。そのカタツムリが、こんどは

マイマイカブリに食べられて・・・と続いていき、ついにカルシウム

は海の海藻にたどりつく。その海藻はまた人間に食べられていくとい

う話になっている。

本文は簡単だが、お話に出てくるキュラクターたちのちょっとくわ

しい話も添えられている。あとがきに「私たち人間も、やがて骨とな

って土になります。食べることで生き物から生き物へと受け渡され、

遺体やいらなくて捨てた便や尿などすべてが地球の一部となり、また

生きものにもどっていくのです。」「人間も、地球の物質の循環の中

にいるのです。」とまとめて書かれている。人間の場合は火葬された

りしているが、散骨を希望している人もいる。原子は限りなく循環し

ていることを物語っている。     20212月刊  1,200

           新刊案内5月